「獣人」(横溝正史)

由利・三津木の事件簿01

そして作品自体も「ヤング」です

「獣人」(横溝正史)
(「由利・三津木探偵小説集成1」)
 柏書房

「由利・三津木探偵小説集成1」柏書房

「獣人」(横溝正史)
(「悪魔の設計図」)角川文庫

「悪魔の設計図」角川文庫

銀座の百貨店の
ショーウインドウから
見つかった女の首。
事件はそれだけで終わらず、
続いて腕、脚が見つかる。
脚を発見した
青年・由利燐太郎は、
その現場で無数の鉄の針の
装着された鎧を着た、
ゴリラのような
生き物を目撃する…。

金田一耕助と並ぶ
横溝作品の名探偵・由利麟太郎
記者の三津木俊助とコンビで活躍する
作品が多いのですが、
本作品は一人です。
何しろまだ青年です。いわば
ヤング由利「燐」太郎の物語です。
そして作品自体も「ヤング」です。

【事件簿01 「獣人」】
〔事件捜査〕
由利燐太郎…学生上がりの青年。
※のちの登場作品は「麟太郎」となるが
 本作品では「燐太郎」となっている。
〔事件関係者〕
三輪虹子
…白鳥座のスター的踊り子。
 バラバラ死体で発見される。
鮎川珠枝
…白鳥座のスター的踊り子。
 命を狙われる。
獣人
…ゴリラのような怪人。
 鋼鉄の針を植え付けた鎧を着ている。
鵜沢白牙
…高名な学者。
 マッド・サイエンティスト。
鵜沢銀子
…白牙と結婚した元白鳥座の踊り子。
ゴリラ
…白牙が飼育していた妖獣。

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本作品の「ヤング」なところ①
もしかしてSF?

科学を超越した出来事が
描かれている本作品は、
ミステリーというカテゴリーからすると
「ヤング」です。
ある特殊な薬品を注射すると、
一瞬のうちに老人の筋肉が増強され、
若返り、しかも獣のようになるなど
噴飯ものです。
ジキルとハイドも驚愕の、
もはやSFかと見まごうような設定です。

横溝はよほどこの獣と人間の融合体が
好きだったのでしょう。
その後の「夜光虫」
そしてジュヴナイルの「怪獣男爵」にも
使われています。

本作品の「ヤング」なところ②
もしかして劇場型犯罪?

百貨店のショーウインドウに
殺害した女の首を置いたり、
娼窟街の遊女に死体の腕を持たせたり、
バラバラ殺人に止まらず、
それぞれのパーツを
これ見よがしに人目にさらします。
その動機について最後まで
一切触れられないのは
ある意味「ヤング」です。
現代でいうところの「劇場型犯罪」の
はしりのような設定です。

こうした「劇場型」の殺人については、
本作品以降、横溝も乱歩
競って用いることになります。

本作品の「ヤング」なところ③
もしかして冒険活劇?

展開も「ヤング」です。
敵の誘いにわざと乗って
屋敷に乗り込むものの、
タンスに監禁される由利。
獣人に変身する敵。
しかしなぜか別の部屋に
本物のゴリラも飼われていて、
獣人はゴリラに倒される。
危機一髪のところを、
由利を慕う女性・珠枝が
ピストルを持って駆けつけ、
ゴリラを撃ち殺して完結。
推理はそっちのけで
冒険活劇のスリリングを
前面に押し出した作品なのです。

と、書き出すと、
作品のあら探しのようになりますが、
そうではありません。
本作品は病気療養を終えた横溝が、
名作「鬼火」をひっさげて
ミステリー界に再登場した
昭和10年の作品です。
「鬼火」「蔵の中」もそうですが、
これからの探偵小説はどうあるべきか、
試行錯誤をしていた時代の
作品なのです。

後の名作群に使われている
様々なパーツがちりばめられたような
本作品の価値は、
決して低くはありません。
ヤング由利燐太郎の冒険を、
ぜひご賞味ください。

〔「由利・三津木探偵小説集成1」〕
獣人
白蠟変化
石膏美人
蜘蛛と百合
猫と蠟人形
真珠郎
付録①六人社版「真珠郎」序文ほか
付録②名作物語「真珠郎」
編者解説(日下三蔵)

(2018.9.11)

〔追記〕
こちらもご覧下さい。

墓村幽の味わえ!横溝正史ミステリー

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(2023.6.27)

〔柏書房「由利・三津木探偵小説集成」〕

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〔「悪魔の設計図」収録作品〕

〔関連記事:横溝ミステリ〕

〔角川文庫:由利・三津木シリーズ〕

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